先月、エリック・クラプトンの来日公演が行われました。1960年代から活躍しているロック界のレジェンドで、古いファンには“スローハンド”“3大ギタリスト”として知られています。海外アーティストの武道館公演記録を更新し、80歳になった今もその神技を披露したようです。

エリック・クラプトンは1963年にヤードバーズに加入後、ビートルズのアルバムに参加したり、クリームなど数々のスーパーグループを結成して名をあげます。なかでもデレク・アンド・ザ・ドミノスとしてリリースした「愛しのレイラ」はロック史上に残る名曲です。                その曲が録音された1970年、「ロックは体に良くない」という論文がアメリカ中で話題となりました。いわゆるロック有害論です。ドロシー・リタラックの研究によるものですが、論争の主役となったのは植物でした。*参照:ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード著「植物の神秘生活」より

〇植物はロックよりクラッシックがお好き                                                                                         1968年、8人の子供が無事成人したドロシー・リタラックは、音楽の勉強をしようとテンプル・ビュエル大学に入学しました。「おばあちゃん大学生」である彼女は、生物学単位取得の為に友人と植物に音楽を聞かせて反応を見るという実験を行います。そして、音楽を聞かせたセントポーリアの方が枯れにくかったというレポートを提出します。

このレポートに理解を示した大学側は、リタラック夫人に全く同じ条件に維持された2つの温室を提供し、そこにかぼちゃ、トウモロコシ、ペチュニア、キンセンカ、百日草を植えました。一つはクラッシック専門の音楽を流すラジオを入れたクラッシック音楽温室、もう一つはロック専門番組を流すラジオを入れたロック音楽温室です。クラシック音楽を聞かせた方が、ロック音楽を聞かせた植物より生長が良いのではないかという仮説のもと、実験は行われました。

結果、クラッシック音楽温室の植物はラジオの方へ葉を伸ばし、スピーカーに巻きつくものさえありました。逆に、ロック音楽温室の植物はラジオから遠ざかるように反対の方向へ伸びていき、それはロック音楽を嫌がっているかのようでした。他に、次のことが報告されています。

・ロック音楽温室の植物は、クラシック音楽温室の植物と比べると、2倍の水を消費し、根も4分の一程短い              ・植物はクラッシックの弦楽器、インド古典楽器シタールの音を好む

そして1970年、この話を聞きつけたCBSテレビが「流行りのロックは若者を駄目にする」という番組を放送します。当時はレッドツェッぺリンやディーブパープルといったハードロックが台頭して人気でした。それを騒がしい音楽と嫌うグループが、ロックの騒音が植物を枯らしたように人間にも悪影響を与えるという「ロック有害説」を発展させたのです。賛否両論ありましたが、結論はでないまま論争は終わたようです。

〇植物と音楽の関係                                                                                                     植物学において植物と音楽の関係は謎が多いです。インドやアメリカの植物学者が、音楽を聞かせると植物の気孔が大きくなり、通常よりも発芽や生育が早いという報告をしています。日本でも音刺激を与えた時の植物気孔開度の変化を調べていて、音の振動が気孔の開き始めに影響を及ぼすことまではわかっているそうです。

植物は動物のような神経系を持たないので、音声を聞くこともそれに反応する事もありません。但し、音という振動に刺激を受ける事は確かなようです。

論争から55年、ロックやクラシックは変わらず人を楽しませています。それが論争の答えかもしれません。麻薬中毒から大英帝国勲章を貰うまで立ち直り、アンプラグドで演奏するエリック・クラプトンを聞いて、天国に召されたであろうリタラック夫人は何を思うでしょうか。