アメリカの作家、O・ヘンリーの短編小説に「最後の一葉」という作品があります。

あらすじは、画家の卵である若き女性が入院し「病室の窓から見える蔦の葉が全て落ちたら自分も死ぬ」と思い込みます。彼女を救うために、同じアパートに住む老画家が、冬の嵐の夜に煉瓦の壁に一葉の絵を書きます。それが描かれた絵だとは知らない彼女は、いつまでも落ちない最後のー葉を見て、生きる勇気が生まれ病気は回復するという話です。

「植物が人に生きる力を与え、病気の回復を早める」というこの作品と同じ結果が、アメリカの病院で報告されています。胆嚢摘出手術後の患者で、病室の窓からレンガ塀しか見えない病室の患者と樹木が見える病室の患者では、回復の度合いに明らかな違いがあることがわかりました。「緑が手術後の患者の回復を早めた」という数値データです。

調査は、アメリカのペンシルバニア病院(200床)で行われました。胆嚢摘出手術をした患者を、手術後に性別、年齢、喫煙の有無、体重などで片寄りのないようにして

窓からレンガ塀しか見えない患者=壁の患者
窓から落葉樹の緑が見える患者=緑の患者

という2つに分け、23組46名からデータをとりました。その結果として、緑の患者の方が、壁の患者よりも手術後の回復が早いことが分かりました。具体的には次のようなデータが残っています。

・ 鎮痛剤の要求度 / 緑の患者は壁の患者に比べ、強い鎮痛剤の要求が低い
・ 退院までの日数 / 緑の患者の方が、壁の患者より約1日早い       
・ 看護婦の看護日誌の評価 / 緑の患者の方が、壁の患者より評価が高い

病状だけではなく患者の精神状態にも影響を与えることがわかり、アメリカでは寝たまま窓の外から緑の見える病院の建設が進められたそうです。

この報告は、京都府立大学・下村教授の文献から紹介しました。下村教授もこの結果について『この調査結果は、0・ヘンリーの小説「最後の一様」で病室から見える蔦の葉が人に生きる望みを与える話に、リアリティーを与えた。何故、人が緑で安らぎ、癒され、外傷の痛みすら軽減するのかは未だ解明されていないが、その成果を療養の分野に活かす園芸療法も国際的な広がりを見せている』としています。

病院内の緑化は、入院患者に大きな安らぎと癒しを与え、そのことが病気の早期回復に役立っているのです。「あの病院は緑が一杯なので病気が直ぐ治る」、そんな評価に繋がると、緑の役割はますます広がっていくと思います。

参考文献- 2007年、京都府立大学・下村 孝教授「身近な緑がもたらす心身の健康と人間らしい生活」から-